ヘリコバクター・ピロリ菌とは
ヘリコバクター・ピロリ菌(通称ピロリ菌)は胃十二指腸潰瘍をはじめとし、萎縮性胃炎、鳥肌状胃炎、などに関与していると言われ、その延長線上に胃癌の発生に関わっていると言われています。
ピロリ菌は経口感染します。免疫が未熟な幼少期に胃に感染すると自然淘汰されることはほとんどなく胃に定着し慢性的な胃炎になります。慢性胃炎は長年の経過で萎縮性胃炎となり胃癌の母地となります。幼少期に汚染した井戸水を摂取した場合や感染した両親の食事介助などで経口感染するといわれています。胃炎が長く経過した人ほど発ガンリスクは高くなるのでなるべく早い年齢での駆除(除菌治療)が必要です。
ピロリ菌への除菌治療は、まさに「胃がんワクチン」であると考えています。若い世代でピロリ菌感染の有無を調べ、胃がんを予防することが新しい胃がん予防法と考えています。
保険で治療を受けるには
- 除菌治療を保険で行うには半年以内に胃カメラで「胃炎があること」および「ピロリ菌感染が陽性であること」と診断されていることが必要です。
胃カメラ検査結果は当院以外のものでもOKです。他医で受けらた結果がわかる書類をご持参いただければそれで結構です。 - ただし胃バリウム検査結果は保険治療の対象とはなりませんので注意が必要です。
当院での胃カメラ検査は予約検査ですが保険で検査を受けることができます。
胃カメラ検査を受けるには仮予約をされていても事前に(検査日の3か月前~1週間前までに)一度ご来院いただく必要があります。 - 胃カメラ検査のためには半年以内の「Hbs抗原」「HCV抗体検」「肝機能腎機能」「血小板数などの抹消血液検査」以上の検査結果が必要です。
当院で採血をおこない事前に調べる体制を整えていますが、ご持参いただいた書類に検査結果がすべて含まれていれば当院での採血検査は不要です。
胃バリウムで「要精査」となった場合
- 胃バリウムで「胃炎」や「粘膜不整」などの記載があり胃カメラ検査の指示が出ている方の場合です。
当院での胃カメラ検査は予約検査ですが胃バリウム検査で「要精査」となった方はすべて保険で胃カメラを受けることができます。
ABC健診で要精査になった方
ABC健診とは、胃のペプシンの前駆体であるペプシノーゲンの分泌能、いわゆるペプシノーゲン法(以下PG法)を利用した方法です。
ピロリ菌が長年胃に感染すると胃を荒廃させペプシノーゲンの分泌低下をもたらします。これを萎縮性胃炎といいます。
よって、PG値あるいはPGI/II比が低下している方は「萎縮性胃炎」になっている可能性が高いといえます。
萎縮性胃炎はその萎縮の程度、ピロリ菌の感染の有無に応じて、A→B→C→Dというカテゴリーに分類されます。
Dになるほど胃がんのリスクは高くなりPG法とピロリ菌抗体有無をミックスさせてリスク判定する健診方法をABC健診と呼んでいます。
萎縮性胃炎は高率に胃がんになるといわれているので、PG法で「要精査」となったグループは「萎縮性胃炎」や「胃がん」のグループが高いことを利用した方法です。詳細はこのページ最下段に説明しています。 - 当院での胃カメラ検査は予約検査ですがABC検査で「要精査」となった方はすべて保険で胃カメラを受けることができます。
ヘリコバクター・ピロリ菌検査方法
検査方法は5通りあります
胃カメラでピロリ菌感染胃炎を観察診断することが基本です。
以下はその補助診断方法です。
胃カメラ時に行う方法(予約検査)
- 迅速ウレアーゼ法
胃炎がみられた際に胃組織の一部を採取し約30分で判明します。検査後すぐに治療が開始できます。 - 培養法
胃生検材料を実験室で培養にかけて増殖させ菌の薬剤感受性検査を調べます。確実性の高い方法ですが4週間ほどの時間がかかります。 - 鏡顕法
胃の組織を生検採取した標本を専門の病理医が顕微鏡で観察し診断をおこないます。2週間ほどの時間が必要です。
胃カメラを用いない方法
- 抗体法
血液あるいは尿抗体法があります。もっとも安価なためピロリ菌のスクリーニングに用いますが当たりはずれの多い診断であくまで補助診断です。 - 抗原法
便抗原検査を行ないます。 - 尿素呼気テスト
微量のピロリ菌も検出でき確実性が高いので除菌治療の判定の際に行います。当院では除菌薬服薬後6週間目に行っています。朝食を抜いて来院いただき検査の所要時間は約20分です。予約検査になります。
胃炎には「ピロリ菌感染胃炎」とそれ以外の「胃炎」があり、内視鏡診断を行うことが最も確実な方法で以上はその補助診断となります。
上記検査はあくまで目安であり内視鏡観察医の眼力が重要と考えます。
日本ヘリコバクター学会認定医の院長が診療にあたります。
ピロリ菌感染胃炎の保険治療
保険内治療の対象となる方
胃カメラ検査を半年以内に受け「胃炎の所見があり」かつ「ピロリ菌感染が陽性」であること。
他医療機関で検査を受け当院で除菌治療のみを行うことはOKです。ただし、「医療機関名」「検査日時」「胃炎」「ピロリ菌感染あり」を明記した検査報告書を持参いただく必要があります。
繰り返しになりますが胃バリウム検査のみでは保険適応とはなりません。その場合は胃カメラ検査による再検査が必要でになります。
保険内治療の対象とならない方
胃カメラ検査が半年以上前のデータでは治療薬をお渡しできません。
ペニシリンアレルギーの方
胃カメラは受けたくなく除菌治療のみを希望する方(※)
※この方法はヘリコバクター・ピロリ学会では推奨しておりません。
除菌治療の流れ
除菌治療には、抗生剤2種類+PPI(タケキャブ)と呼ばれる胃潰瘍治療剤を1週間服用します
除菌治療の副作用は、下痢(約13%)、味覚異常(約5%)、肝機能障害(約3%)などです
一次除菌治療の成功率は約90%です
当院では除菌治療開始日から6週間目に尿素呼気テストによる確認検査を行っています
一次治療で駆除できなかった約10%の方には治療薬の種類を変えて2回目の治療(二次除菌)を行います
三次除菌は学会でも研究されていますが、当院ではニューキノロン系の抗生剤を使用します(自由診療)
ペニシンアレルギーの方の除菌治療にも対応しています(自由診療)
自費診療の料金(保険での検査や治療を希望されない場合)
ピロリ菌がいなかった方(検査のみで終わる方)
I. 尿検査(所要時間20分)(感度75%以上)(通院;1回)注1)
(→ピロリ菌の情報が全くなくはじめてピロリ菌のチェックを受ける方に向いた簡易的な検査法です) 4,000円
Ⅱ. 尿素呼気テスト+診察料(感度95%以上)(通院;2回)注2)
(→以前除菌治療を受けたが、成功の有無を確認していない方に向いた検査です) 11,500円
除菌料
Ⅲ.検診などでピロリ菌感染が明らかな場合 注2)
除菌治療(処方費用)+尿素呼気検査による確認(6週間後) 14,500円
尿素呼気試験には8時間の絶食が必要です
*注1)ピロリ菌外来は16:30までの受付となります。
*注2)血清ピロリ菌抗体検査、尿素呼気テストの結果には1週間を要します
ヘリコバクター・ピロリ菌の有無と萎縮性胃炎の程度であなたの胃がん危険度がわかります
下記の表はヘリコバクター(以下HP)の存在(+かー)とペプシノーゲン(以下PG)の存在(+かー)をみた場合の胃がんの発生数をあらわした表です。
発見胃癌数 | オッズ比 | 推奨検診間隔 | |
---|---|---|---|
A群 HP(-)PG法(-) | 0/966 | ×1 | 3~5年間隔 |
B群 HP(+)PG法(-) | 25/2327 | ×9.8 | 1年間隔 |
C群 HP(+)PG法(+) | 30/1329 | ×19.6 | 1年間隔 |
D群 HP(-)PG法(+) | 4/33 | ×120.4 | 半年~1年間隔 |
表の説明
ペプシンの前駆体であるペプシノーゲンIとIIを測定しその強弱で胃粘膜の萎縮の程度を数値化したものがPG法です。PG法陽性が即胃がんであるという意味ではありません。腸上皮化生を伴う萎縮性胃炎では高率に胃がんが発見されているので萎縮の程度を数値化して検診に役立てようと試みられているのがPG法です。PG法陽性とは萎縮性胃炎が進んでいることを表現しておりPG法陰性とは萎縮の少ない胃であることを表現しています。萎縮性胃炎は慢性胃炎が進行した状態と言え、長年ヘリコバクター・ピロリ菌の感染が継続していた胃のことです。
A群での胃がん発生数を1とした場合それぞれの群での実際に発生した胃がん発生のリスクを表示しています。これまでヘリコバクターに感染した既往がなく、胃粘膜の萎縮性変化もない胃では胃がんは発生していないことがわかります。このような胃をお持ちの方の検診間隔は3~5年でよいと思われます。一方、ヘリコバクターの存在が確認できた例あるいは萎縮性胃炎と言われた例では毎年検診を受ける必要があると考えています。
(日本がん検診学会誌より一部改定)
注意)
免疫機構が不十分な幼少期にピロリ菌が感染すると胃は菌を受け入れてしまい慢性炎症が始まります。20年~30年経過するとピロリ菌が胃の粘膜構造を破壊し萎縮性胃炎になります。萎縮性胃炎はその進行度に応じて(C-I、C-Ⅱ、C-Ⅲ、O-Ⅰ、O-Ⅱ、O-Ⅲと分類できます)。萎縮の程度が進行し高度萎縮性胃炎になるほど胃がんのリスクは高まります。
何とか萎縮の程度が低い状態で発見し、将来胃がんに高率になりそうな人を除菌治療をおこなうことが急務です。そのためには、20歳代の若年者で一度感染の有無を把握しておくことは将来の胃がんを回避する最も有効な対応策です。現在、保険でピロリ菌検査有無をうけるには胃カメラ検査を一度受けていただく必要があります。
除菌によってB群およびC群がD群になるわけではありません。まず、ピロリ菌は強い酸を産生する胃粘膜でしか生きることができません。萎縮が進み酸が弱くなった胃ではピロリ菌の住環境が悪くなり自ら消滅してしまうことによってD群に至ります。逆に除菌によってピロリ菌が消失した胃では萎縮性胃炎の進行が止まります。興味ある報告では、早期胃がん内視鏡治療症例を対象に除菌した群と除菌しなかった群を比べた場合、除菌しなかった群では1/8の確率で異所性異時性再発(時を別にして治療した場所以外で胃がんが発生すること)があると言われ、除菌した群では異時性再発はなかったと報告されています。たとえ萎縮が進んだ胃であっても除菌することにより胃がんの発生を抑えていることがわかっています。
萎縮性胃炎の程度がC群D群と判定された場合1年に1回の胃カメラを受けてください。症状の有無にかかわらず保険適応による胃カメラ検査をうけることができます。